8月10日(土)から13日(木)まで行われた夏休み子ども企画には、京都、丹波、姫路、益子から4組の夫婦や親子連れが訪れ、総勢13名の参加者で大変賑わった。今回の新しい試みは、地域主催イベント「自然探訪スクール~ゆかし潟でハゼを採ろう~」に全員で参加することだった。
ゆかし潟は、三本の川から淡水が流れ込む一方、湾からの海水が流れ込むという汽水湖(きすいこ)である。望郷詩人、佐藤春夫の歌「なかなかに名のらざるこそゆかしけれゆかし潟とも呼ばま呼ばまし」にちなんで「ゆかし潟」と呼ばれるようになった。
「ハゼってどんな魚?食べられるの?」皆、何の予備知識もないままに、水濡れオーケーのスタイルで魚採り網を持参して集まると、招かれた講師の先生方を紹介された。が、話もそこそこにすぐにハゼ採りに行くと言う。どうやら、4、5センチ位の小さな魚らしい。「ハゼは、臆病ですばしっこいので、そっと岩や石を持ち上げて、網を構えて待っていて下さい。すると、びっくりしたハゼが網に飛び込んできます。」そういうものなのか。早速地域から参加の親子連れも含めて、総勢50名位でぞろぞろと湖畔へ移動した。
まず驚いたのは、足元を駆け巡るカニの群れである!まるで虫のようにウヨウヨいて、しかも横方向に全力疾走している!ここは地上ではないのか?呆然として、導かれるままに、皆で湖へ入っていった。ふと先方に目をやると、講師の先生自ら、もうハゼ採りに夢中である。一方、子ども企画で来た子ども達は、始め戸惑っていたが、やがて目が馴れ、2センチ弱のゴマハゼの大群を見つけると、魚採り網を振りかざして、早速ピチピチはねる可愛らしい魚達を捕らえた。大漁だった!一旦、この醍醐味を知ると、後は自然の成り行きで、胸や腰まで水に浸かり、魚採りに夢中になっていった。大物を見つけると「お父さ~ん!」父親の出番である。4センチ強のチチブというハゼや7センチのクサフグまで捕らえ、子ども達を大いに盛り上げてくれた。
魚を見つける人、追いかける人、協力して魚を囲んで、最後に仕留める人。誰が仕切るでもなく、自然なチームワークと一体感が生まれる。逃がした時の悔しさも、捕らえた時の感動と満足感を倍増してくれる。
最後に、参加者全員で集合し採った魚達の品評会をした。ハゼ類だけで10種以上あり、中にはきらめくのや美しいひれをもつのもあった。その他フグ類、カニ、エビやヤドカリの類等、珍しい魚を採った子は、誇らしそうな表情で目を輝かせ、すっかりミニ魚博士の誕生だ。小雨が降り出しても、「終りですよ~」とスタッフが叫んでも、熱気と興奮冷めやらず、人だかりは消えない。いつまでも魚を眺めている大人と子どもの姿があった。
嗚呼、人間は本来こうした感動の中に生かされるものなのだ。天然の美しさと微妙な均衡は、人間業では成し得ない、神の創造の奥深さを思わせる。
異なるものが互いに愛し合って一つとなる。淡水と海水の混じり合うゆかし潟は、生命の宝庫だ。気象によって海水濃度の変わる湖では、おそらく命のサイクルはめまぐるしいに違いない。しかし、この絶えざる変化が他に類を見ない、しかも決して人工では作り出せぬメカニズムを生む。実に、熊野の自然には人を魅了する力がある。
(2020年1月1日発行「熊野だよりNo.39」より)