「大きなチヌやで!」〜稲本能子さんの証言より

このページには、海釣りに参加された稲本能子さんの証言が掲載されています。

 M君(息子)が日ごろから「自分の言葉の不自由さ」を自覚しており、エマオ塾で日本語検定の勉強をしたいと永山操さんに自らメールでお願いし、8月5日~16日までの2週間引き受けてくださることになりました。

 熊野は千葉で生まれ育った彼にとって初めての場所で、しかも大阪の都心部からは遥か遠い紀伊半島の沿岸に位置します。大阪は10年ぶりというM君に同行し、2泊3日間惠泉大阪教会に滞在しました。

 大阪での3日間、神様が共にいて下さり、最も印象深く、本当に神様が働いて下さったと実感した出来事は、3日目の朝、エマオ塾と大阪教会のK姉と一緒に堺市の浜の埋立地に設けられた「海釣りテラス」での海釣りでした。

 私達が大阪に行って2日目、熊野惠泉塾には余市で生活していた高校生のJ君と千葉から中学3年のW君、永山忠さん、W君のお母さんの4人が熊野から来て大阪教会に合流しました。その日の夕食後は熊野での様子を大阪教会の大画面テレビに永山忠さんのスマホを接続して皆で観ました。2人で広場でキャッチボールをしたり、水族館に行ったり、川遊びをしたりと、毎日のように屋外で色んな活動に参加し、毎日夕食後の語らいがあり、一人部屋に籠ってゲームをする時間など全くない、充実した日々を送っている様子が伺えました。

 そしてその翌朝、いよいよ、皆が楽しみにしていた海釣りの日です。朝から天気に恵まれましたが、大阪は連日35度越えの暑さで、この日もかなり暑い日になりそうでした。現地の海釣りテラスでは、T.M.さんのご主人Tさんと息子のSさんが先に来て準備をして待って下さることになっていました。

 朝食を済ませ、みんなで教会のお掃除をした後、操さんが「8時15分に出発します」と呼びかけて、一旦解散。それぞれ出発の準備をしました。大阪教会のK姉も運転とお手伝いで来て下さいました。出発時間になり、私はK姉の車にW君のお母さんと3人、他の5人は永山さんの車に分かれて乗りました。30分後、2台の車は目的地の海釣りテラスに予定通りに到着しました。その時点では、当然、全員到着するものと誰もが思い込んでいました。

 ところが、車から降りた途端、操さんが「J君を乗せてくるのを忘れた!」と仰るのです。一同「まさか」と驚きました。お互いに相手の車にJ君が乗っていると思い込んでいて、車から降りた時にJ君がいないことに全員が気がついたのでした。私自身も海釣りのお手伝いとしては、全く力不足で申し訳ない気持ちでしたが、どうすることもできませんでした。すぐにK姉が大阪教会に向かいJ君を迎えに行き、他の人は先に海釣りを始めることになりました。

 大阪湾を見渡す堺の浜で、エマオ塾の一行は、TさんとSさんに「サビキ釣り」を釣り方を教わりました。

 サビキ釣りとは沖アミという小さなエビを竿糸に取り付けた小さなエサ籠にいれて、魚をおびき寄せて籠の下にいくつかの釣り針をつけて釣りをするやり方です。糸を海に垂らした周りにもエサを蒔いて魚の群れをおびき寄せながら仕掛けにかかるのを期待して待ち続けます。

Tさんはとても釣りに詳しく、手早く皆の竿をセットして丁寧に釣り方を教えてくださいました。Sさんもお父さんと息がぴったりの動きで、お父さんの補助をしながら、みんなにとても親切に釣りの手助けをしながら、撒き餌を絶やさないように蒔き続けてくれました。

 Tさんが元気のいい声で、「この辺でエサを蒔いてたら、すぐに魚が寄って来よるから!」と励ましてくださるのですが、一向に海面に魚の影がは見えてきませんでした。待つこと約1時間、やっと小さなボラという魚が沢山集まって、小さい魚が1匹、2匹と釣れ、これから何かが釣れそうな予感がしてきました。しかし、30度を超えるカンカン照りの暑さに操さんが疲れてしまい。「ちょっと日陰で休んできます。」と仰るので、一緒に木陰のベンチに避難しました。しばしの間、休んでいると、一人取り残されたJ君が到着しました。K姉と一緒にJ君がうなだれて向こうからとぼとぼ歩いてくる姿を見つけた操さんが、すくっと立ち上がり、一緒に釣り場に戻りました。そして、J君も仕掛けを準備してもらった竿を持って釣り始めました。

 J君が釣りを始めて15分ほど経った頃、いきなりJ君の竿に大きなアタリがきました。Tさんが、「なんか大きいのが釣れたで!竿をもっと立てて、そうそう!」と引き上げを手伝います。それでも魚の力が強くてなかなか姿が見えません。皆で応援する中、J君がリールを巻いては糸をたぐり寄せ、海面まで魚が引き寄せられてくると、きらっと黒光りする必死で抵抗する魚が見えてきたのです。「おっ、これは大きなチヌやで!」と一段とTさんの声が大きくなりました。最後はJ君が引き寄せたチヌをTさんが網で掬いあげると歓声が上がりました。

 J君が5分以上魚と格闘した末に釣り上げたのは、クロダイと呼ばれる大きなチヌという魚でした。釣りに詳しいTさんが、「ここでも滅多に釣れない魚で、こんな大きなチヌはホンマに稀やで!」と驚きを隠せません。J君のうつむいていた顔は、到着してたった15分で喜びの笑顔に変わりました。早速、Tさんがメジャーでチヌを図ると45センチと見事な大きさでした。J君は自分が釣った大きなチヌを両手に持ち、目を輝かせて記念写真を撮っていたのでした。みんなもJ君が大物を釣りあてたことを皆で共に喜び、灼熱の暑さも吹き飛びました。操さんが、「ちゃんと神様が尻拭いしてくださった!」と神様に感謝しつつ安堵の表情をしていました。

 一見、偶然の出来事のように思えますが、これは神様が私達を憐れんでくださり、同伴した大人達の過失をも尻拭いし、J君を励まし、神様を知るようにと神様がご自身が計らっておられるように思えました。私にとっても大阪にも神様が生きて働いておられるのだと実感し、私自身も希望が与えられた体験でした。

 その後も皆がそれぞれにアジや大きなボラ等、次々に魚が釣れ、最初の1時間は長く感じたもののあっという間で、ドラマのような4時間でした。

私はその後堺駅から電車で関西空港へと向かい、札幌への帰路に就きました。エマオ塾の皆さんとK姉は大阪教会に戻って、J君が釣ったチヌを捌いて刺身でおいしく食べたことでしょう。神様はちゃんと豪華な食事も用意してくださいました。

神様の豊かな恵みの御業を褒め称えます。

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