
ゴッドファーザーは、フランシス・フォード・コッポラ監督の描く人生論である。
マイケル・コルレオーネの使命

時代は第二次世界大戦直後から半世紀程に及ぶ。主人公は、イタリア系アメリカ人のマフィアであるコルレオーネファミリーの三男マイケル。彼は大学を卒業し、志願兵として第二次世界大戦にも参加し、一族の誇りであった。
マフィア団の一族を率いり「ゴッドファーザー」としてトップに立つ父親ヴィトは、麻薬取引の事業に応じなかったところ、暗殺されかけた。一命は取り止めたものの、やがて跡取りと目されていた長男のソニーが殺される。次男のフレッドは、気が弱く優しい人柄だが父親の跡目を継いでマフィア団を統率する器量は無い。そこでやむなく三男マイケルが跡目を継ぐことになった。
父ヴィトの死後、年若いマイケルの統率力を試すかのように裏切りが続出する。やむなくマイケルは粛清を図る。父ヴィトを慕い、良き仲間たちであった連中が多数死んだ。残された者達は、彼を二代目ゴッドファーザーと認めた。
マイケルの責任は、コルオレーネファミリーに繁栄をもたらすことであり、また父から託された使命は、マフィア事業を衣替えして合法化することであった。しかし現実は財界、政界、宗教界へ、と権力の庇護を求めて上昇すればするほど、返って闇ビジネスを負わされ、益々ドス黒く深い陰謀にはめられていく。それは父親には知られなかった現実だ。人種差別があり、南米や欧州にまたがる政治的陰謀があり、貪欲、妬みや憎しみに満ちていた。
マイケル・コルレオーネの結婚

マイケルは、結婚においても大きな代償を払わされた。恋人ケイと交際中に父親ヴィトが襲撃されたため、やむなく報復措置として殺人を犯し、彼の命を狙う追手を避けて、父の故郷であるイタリアの田舎コルレオーネ村へと逃亡する。そこで地元の乙女に一目惚れし伝統的な風習に従い結婚する。しかし彼の居場所を突き止めた追手の仕業により、新妻は爆死した。
「やがてお前もこうなる。」マフィアは、標的となる人物の最も愛する者を血祭りにあげ、精神的な苦痛と恐怖を与える。
第二の結婚は、かつての恋人ケイとであった。彼女は、リベラルなアメリカ人女性で、マイケルが合法的なビジネスに就くことを心底望んでいた。しかし夫婦の寝室が襲撃されたり、夫の行先も帰宅の予定も知らされないまま軟禁生活や別居生活を強いられたり、と彼女の思い描くマイホームの夢は無残にも砕かれていく。マイケルは懸命に家族を愛し守り、そのために心血を注ぐのだが、妻の心は冷めていくばかりであった。
ケイは、これまで二人の間に授かった息子アンソニーと娘メアリーを溺愛するものの、第三子を堕胎する。それは未だ闇ビジネスから脱却できぬ夫への命懸けの抗議であった。イタリア人の血統を引き継ぎ、上辺は敬虔なカトリック信徒を装いつつ、不正資金の浄化や血生臭い裏切りと抗争に明け暮れるコルレオーネファミリーの偽善性に耐えられなかったのであろう。マイケルは「僕は今まで変わろうとしてきた。これからも努力するし、必ず変わって見せる」と、夫婦の再出発を誓うも、彼女は「もうあなたを愛していない」と傷心で疲れ果て、彼から去っていった。
コッポラ監督は、欧米の企業家達とバチカンのローマ法王庁まで巻き込む根深い汚職を取り上げた。マイケルは資金援助したものの、騙し取られてしまった。彼は、汚職体質刷新に乗り出す新法王に接近するも、発覚を恐れた手引き者のアメリカ人司教の陰謀により新法王は暗殺されてしまう。
遂にマイケルは老境を悟り、甥ビィンセントにゴッドファーザーを引き継ぐ。血気盛んなビィンセントは、事業の合法化という「見果てぬ夢」を追い求めるマイケルとは違い、マフィア事業をそのまま体現する人物であった。
実の息子アンソニーは、父親に反抗してオペラ歌手を志す。その初演の当日、一族が和解して一堂に介し喜びの日となるはずだったが、敵の陰謀により流血の事態となり、愛娘メアリーは射殺されてしまう。こうしてマイケルは、「家族を守ろうとしたのに、返って壊れていく」という人生の不条理を味わうこととなった。
コッポラ監督は、多くの無意味な血を流したマイケルを罰したかったという。しかし本当に、彼は救い難い存在なのか?
マイケル・コルレオーネの信仰

興業としては失敗と言われる三作目は、マイケルのサクセスストーリーを期待したファンにとっては期待外れだったろう。
ラストシーンでは、最愛の娘を失い、マフィア事業からも完全に引退したマイケルが、シチリアの田舎町で、独り静かな隠遁生活を送っている。
かつて羽振りの良かった頃、彼は闇の富を投じて故郷であるシチリアの復興支援に寄与した。村人達はその恩を忘れてはいまい。
また村の美しい自然やのどかな人々との交わりは、汚れなき初々しい新妻との思い出を永遠に彼の心に留め、慰めを与えたかも知れない。村には彼女の面影を映す乙女達もいただろう。
こうしてマイケルは、村人達の援助を受けながら敬虔なカトリック信徒として暮らしたのではないか?
かつての彼の同業者は皆、死の恐怖に苛まれながら生き、遂には暗殺されたり自殺を強いられたり、と不本意な死に方をした。私は、穏やかな晩年に恵まれたマイケルの生き方に、コッポラ監督の思惑を越えたシチリア人の抱く信仰を見る。
「シチリア人が『永遠の幸せ』という時、それは『永遠の命』を意味する。彼らはそれを決して忘れない。」(「ゴッドファーザー〈最終章〉:マイケル・コルレオーネの最期」のラストシーンの言葉)
神の愛は人間の知恵に勝る。
かつてマイケルは、新法王の人格に触れて兄殺しの罪を告解するも、救いには導かれなかった。しかしその彼が、今や富よりも神を選んだ。「永遠の命」こそ真の平安と悟り得たのである。
コッポラ監督も主演のアル・パチーノもこの映画の制作時、彼ら自身苦境を味わっていたという。彼らが人生論としてのこの作品を迫真をもって世に出せたのは、イタリア系アメリカ人として、信仰の上に立つ人生観を共有できたからかも知れない。
映画制作の途上では、有力な俳優達の降板や本物のマフィアによる妨害も受けた。おまけに監督の娘であるソフィア・コッポラは、父親の要請で急遽出演を決めたものの酷評を浴び、彼に深い心痛を与えた。
しかしこうした困難を経ても、「ゴッドファーザー」が三部作としてこの世に出たことは偉大なことだと思う。私はここに神業を見る。
物語紹介が面白くて一気に読めました!
マイケルの内的変化を軸としたストーリーの整理(解釈)もなるほどと思いながら読みました
ゴッドファーザーフィードバックへの感想
とても良いコメントありがとうございます
解説を楽しんで頂け嬉しいです!
マイケルの内面を軸にして物語を整理するとコッポラ監督の「人生論」が見えてきます🤔
欲(アメリカ)の社会に愛(イタリア)で勝利する人生、つまり
⚪︎「仕事」ーマフィア団の合法的な企業化(父ヴィトへの愛)
⚪︎「生活」ー結婚と一族の繁栄(コルレオーネ一族への愛)
に成功する人生にこそ価値があるという人生観です〜
しかしうまくいきませんでした😢
マイケルが愛する家族を失い、マフィア事業から完全に身を引いて初めて手にした
⚪︎「信仰」と「救い」(神への愛)!
「マイケルの最期」のラストシーンをこのように捉えると、ドン底の不幸は「永遠の命」、即ち天国への切符であることが分かります!
ここにコッポラ監督の人生観を超えた、「シチリア人」の信仰に基づく人生観があります🙂↕️