(2013年12月15日発行『波止場便り No.25』より抜粋、読みやすさのため一部改変)

永山 忠

 八月、姫路の××塾で中学生のための夏期特別講習が行なわれました。目標は「学ぶ楽しさ、生きる喜び」を伝えること、私の役割は知的好奇心を刺激することでした。人は学ぶ楽しみを知れば本気で勉強するようになる、 そのため好奇心に火をつけよう、というわけで、私は「へえ、なるほどねえ」と驚いてもらえそうな話を用意しました。

 例えば、「月は毎年3~4センチずつ地球から遠ざかっている。それは満潮の水の塊が月を加速しているから」とか「地球は昔、今より速く自転していた。1日21時間、1年400日という時代もあった。珊瑚の化石の日輪を数えると判る」などでした。

 また、こんなこともしてみようと思いました。

「コピー用紙を使ってサッカーボールの形を作る。何の道具も使わずに、折り目をつけて正三角形を作り、手で切る。それを折って正六角形にする。正六角形20枚でひとつのボールができる。 つなぎ合わせるときも、糊も何も使わない。誰かと一緒に作ることを呼びかける。 クラスに協力の空気が生まれる」。

 そして次のようなことを思い描いていました。

★何のために学ぶか

・個人的な目的を達成するため

・個人的な好奇心を満たすため

・隣人の役に立つため

・知恵を出し合い、助け合うため

★何を学ぶか

・先人の知恵や知識

・学び方

★如何に学ぶか

・生徒が自ら抱いた疑問を自ら調べて考えて解く

・空き教室に百科事典などが用意してあって、生徒たちが好きなときに見る

・調べてきたことをクラスのみんなに分かりやすく話す

・新たな疑問が生じ、さらに好奇心が刺激される

・クラスの仲間が協力しあう

さて実際にやってみました。最初の二日間です。

・【月は遠ざかり、地球は遅くなる】——空振りでした。特に三年生は「だから何?そら、おもろいかしれんけど、この時期そんな悠長なことゆうてられへん」という反応でした。 学校で「休み明けの実力テストで将来が決まる、夏休みが「勝負」と脅されていて、目先のことで一杯だったようです。

・【コピー用紙でサッカーボール】 ——三年生は皆ひとりで作りたがり、続きを家に持ち帰りました。一年生はクラス全員が正六角形を持ち寄り、時間内に完成しました。

 授業三日目、いわゆる「できる子」たちがやめていきました。塾は好きなように教えられますが、生徒たちも好きなようにやめられます。 できる子たちは、がんがん問題を解きたかったのでしょう。黙ってやめていきました。つられてやめた子もいます。彼は後日「やっぱりひとりでやっててもわからんから教えてください」と言って戻ってきましたが、一日だけでした。 「やめようかな」 と迷った子もいました。 彼女は親御さんに「今日も授業してくれんかった。今日もお月さんの話やった」と言ったそうです。 「問題集をやるのが授業」と思っているようでした。講師三人で話し合った後、電話で水谷先生の指示を仰ぎました。 答えは「方針の変更はなし。 不安を吹き飛ばすくらい面白い話をせよ。 問題集は演習の時間や自由時間にすればよい」でした。 私には「君の話は十分面白い。自信を持ってやりなさい。好奇心の起爆剤になれ」と励ましてくださいました。

 その後は「ここがわからん、わかりたい」という生徒の日々の必要に応えつつ、「実感を持ってもらいたい」との思いから、身近な話をするよう心がけました。例えば、随所で実際に計算をしてもらいつつ、次のような話をしました。

「この紙はA4サイズ。 半分に切るとA5サイズで形は同じ。縦横の比が等しい。方程式を立てて解くと縦は横の√2倍。 ホントかな? 測ってみよう。29.7cmと21.0㎝。何倍?1.414倍。 自乗すると?1.999396。ほとんど2だね。」

「地球の直径は約1万3,000km。 それを13cmに縮めたとすると、月は直径3.5cmで、地球から3.8mの所を回る。○○君、そこに立って手で直径13cmの丸作って。そう、そんなもん。それが地球。夏みかんくらいかな? ○○さん、指で直径3.5㎝の丸作って、ここに立って。これが月。 ゆずくらいかな? 同じ比率で縮めると太陽は直径14m。ガスタンクくらいかな? それが1.5km先にある。ここから1.5kmって、どこ。 地図見よう。海岸の公園だ。」

「せんせ、そこ知っとる。 めっちゃ遠いやん。」

「そ、太陽は遠いのだ。」

「太陽から地球まで1億5,000万km、光は秒速30万km。じゃあ、太陽から出た光が地球に届くまで何秒かかる? そう、500秒。それって、何分何秒? 8分20秒。」

「お隣の星まで4.3光年。つまり光が4年以上かかる。すごく遠い。 でも銀河系の直径は10万光年。すごく大きい。その銀河系みたいなものが何千億個もある。宇宙はとてつもなく大きい。実感わかないよね。」

「地球を今度は130cmに縮めてみよう。 富士山は何になる? 0.4mm弱。 シャーペンの芯の太さより低い。地球はでこぼこしてるようだけど、結構つるつる。人が暮らせる所はせいぜい海抜5,000mまでだって。それって0.5mm。ずいぶ薄っぺらな所に貼り付いて暮らしてるんだね。」

「赤道の上にいる人、じつは時速1,666kmで動いてる。地球一周4万㎞を24時間で動くから。 これって音速超えてるね。北極点から1mの所に立ってる人はどう? 北緯45度の所、例えば北海道にいる人はどう? √2を使うよ。」

 たくさん種を蒔きました。いつか大きく育ちますように。